Hira2’s.diary

そらはいつだって淡々としている――。

カップ憂える。

2017/02/15 0:00

「ゆでたまごの話ばっかりしやがって。俺はどうした。俺は。」とお隣の珈琲カップくんが叫んでいる。

「貴方は、黙っておじさんの口と接吻してりゃいいのよ。」とお隣のゆでたまごちゃん。

「フンッ。そんなお前も本当は、別府の温泉にでもつかりたかったんだろう。こんな貧相な喫茶店に運ばれ、ゆでられ、憐れな者よの~」

「そういえば、貴方耳が一つね。人間は、手が左右あるのに。ぷっ。」

「これでいいんだ。人間が新聞を読みながら、手さぐりしているところ、実は俺さまがくるっと回ってやっているんだ。そうとも知らず、あいつら自分の意思でキャッチしたと思ってやがる。」

「でも、貴方さっき、回り過ぎて一周してたじゃない。」

「ば、ばか、それはこの客がトイレに行って、手を洗わなかったんだ。よけたら、逆にわしづかみされて、大変な目にあった。」

「耳を二つにしたら、そんなに回らなくていいじゃない?」

「メタボ対策だ。この腰のくびれをキープするのも大変なんだぞ。けど、高校野球のヘルメットが片耳から両耳になったとき、頭にきて俺は四つにしてやろうかとも考えたんだ。」

「じゃあ、なぜなの?」

「もし四つあったら、ダイレクトに俺さまの体を触ってくるだろう。一つだけだから、必死につまもうとする。人間ってのは単純なんだ。トカゲのしっぽが三本もあってみー、体を踏んでくるぞ。」

「捨て身作戦ね。じゃあ私には耳がない。どうしたらいいの、教えてよ。」

「いや。むしろ耳は無いほうがいい。実は俺も無くしたいくらいだ。人間の野郎が、耳を『取って』と呼ぶのに、全然取れないんだ。」

「なぜ、取りたいの?!」

「耳があると、いろんな人間の声を聞かされるぞ。毎日、毎日、悲しい話、暗い話、険悪な話、最近はLINEで人生を変えるとか、くだらん話し合いがことさら多い。幸せそうな夫婦が来たかと思えば、旦那の唾だけ飛んでくる始末だ。」

「へぇ~、そうなんだ。」

「実は、もっと深刻なことがある。それはな、店員とは長い付き合いなのに、俺さまのことを『お皿』と呼ぶんだ。『空いたお皿をお下げしてもよろしいでしょうか。』って、せめてグラスだろ。物体だって、自尊心を傷付けられることが一番辛い。魚や野菜だって、食べられることよりも、『いただきます』と言わない人間に対して怒っているんだ。

「そうなんだ。でも私も耳が欲しい。教えてよ。」

「フッ、心配するな。もうじきお前は、目の前のガキにパンの耳と一緒に食べられる。」

 

P.S.
ある日、オードリーヘップバーンが入店してきた。
珈琲カップくんは、狂喜のあまり飛び上がった拍子に、テーブルから落ちて割れてしまった。

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